僕達の願い 第37話


「やっとですか。随分かかりましたね」

黒髪の少年は呆れたようにいいながら、優雅に紅茶を口にした。

「やっとなんて言わないでくれないか。私がどれだけ頑張って引き延ばしたと思っているんだい?」

金髪の青年は困ったように眉尻を下げながら、白の女王を動かした。
コトリと小さな音を立て、女王は盤面を移動する。

「兄さん、そこにクイーンは悪手です。2手後にチェックをかけても?」
「だ、駄目だルルーシュ」

そう言うと、金髪の青年は慌てて白の女王を元の場所へ戻した。
そして再び眉を寄せ、どう動かすべきか真剣に悩み始める。
目の前にいる青年はクロヴィス・ラ・ブリタニア。
あの時代で、ルルーシュ自ら殺害した、腹違いの兄である。
ロイドの情報からクロヴィスもまた記憶がある事を知ったルルーシュは、V.V.を封じる装置を作るため、ロイドを通しクロヴィスに協力を呼びかけたのだ。
側近のバトレーも記憶を持っており、皇帝が恐ろしい計画を立てている事、ルルーシュがゼロと名乗りテロリストとしてブリタニアと戦う事、V.V.と言う不老不死者がルルーシュを狙っていた事もクロヴィスはバトレーからすべて聞いていた。
皇帝がギアスという不可思議な力を持っており、その力でルルーシュの記憶を奪い、操り、軍師として戦場に立たせた事も、その後再び記憶を奪い、餌と呼んでいた事も。ルルーシュにもギアスがあり、その力でクロヴィスも殺されたと言われたが、自分はルルーシュの手で射殺された。だからあの質問の時に使われたものがギアスだと気づき、それは否定した。
その頃既にマリアンヌは暗殺され、ルルーシュは重傷を負っていた。
それもあの頃以上の、命にかかわるほどの傷。
未来の記憶を持つ誰かの仕業だと気付き、クロヴィスとバトレーは口を閉ざした。
今騒ぎ立てても何もできない。
下手に皇帝に口を出せば、廃嫡されてしまうだろう。
そうなれば何も守れない、何も成せない。
だから見舞いに行くことも自制し、幼い弟と妹を影ながら見守っていた。
ナナリーはずっとルルーシュの傍にいて、謁見の間に行く事は無かったから、日本に送られる事は無いと思っていたのに、二人とも廃嫡はされなかったが、日本へ送られてしまった。
どうしたらいいか悩んでいた時、舞踏会で顔を合わせたロイドにカマを掛けられ、未来の記憶がある事を知られていたのだ。
クロヴィスはC.C.を捕獲していた側の人間で、その資料を見ていた。当然バトレーもだ。科学者たちは二人の協力を得、コード能力者を封じるカプセルの作成に成功。
扇という餌に予想通り食いついたV.V.はすでにカプセルの中に封印されている。
それ以降、クロヴィスは何度も日本を訪れ、堂々とこうして二人に会っていた。
廃嫡されたわけでも、死んだわけでもない、ただ外国に留学しているだけの弟と妹に会う障害など今は無い。
あの時と違い、殺しあう関係でもない。
2028年までの未来を知った後は尚更日本と戦争してはいけないと、クロヴィスは日本好きをアピールし、日本を題材とした美術品を多く手掛けた。
それだけでは無く、エリアの総督にはなっていないが、ルルーシュのスパルタ教育の甲斐も有り優秀な外交官としての地位を確立しつつあった。

うんうん唸りながら盤面を睨みつける兄の様子にくすりと笑みをこぼした時、カチャリと音を立てクラブハウスの扉が開かれた。
飴色の髪の少女が扉の向こうから姿を現し、ルルーシュの傍へ近づいた。

「お兄様、テレビ局の方が学園内に入りました」

ノートと教科書を手にしていたナナリーは、そう言うと向かい合うルルーシュとクロヴィスの隣に椅子を移動して座り、ノートを開いた。

「そうか、もうそんな時間か」
「ふむ、では早くこの勝負を進めなければいけないね」

クロヴィスはにっこり笑うと、白の兵を手に取った。



『本日は日本にあるアッシュフォード学園にやってきました。この学園はアッシュフォード家が、日本にご留学中のルルーシュ殿下とナナリー皇女殿下のために建設した学園です。あの暗殺事件で爵位を剥奪された後も、お二人をお守りしたいというルーベン・アッシュフォード氏は・・・』

アナウンサーはこの学園の説明をしながら、学園内の美しく舗装された道を歩いていた。学園内は全てバリアフリー。それはルルーシュ殿下のためだとか、セキュリティは日本一高くどこよりも安全だとか、皇族二人を預かるには十分な設備だという話を続けている。
やがて学園から離れたクラブハウスへとカメラは向かい、ようやく見たかった人物の姿がカメラに映り、僕は口元に笑みを浮かべた。
光あふれるテラスのはテーブルとイスが置かれており、そこには三人の男女が仲睦まじく談笑していた。
金髪の青年と、黒髪の少年は向かい合って座り、テーブルの上に置かれたチェスをしていて、飴色の髪の少女は、その二人の間に座り、ノートと本を広げている。
見目麗しい兄妹3人が微笑み合う姿はまるで映画のワンシーンのようだった。

『ごらんください。クロヴィス殿下、ルルーシュ殿下、ナナリー皇女殿下のお姿が見えてきました。どうやらクロヴィス殿下とルルーシュ殿下はチェスをされているようです。ナナリー皇女殿下は本を手に、ルルーシュ殿下に何か質問をされ、その質問にルルーシュ殿下が答えている姿が見られます』

そこから今度はクロヴィスの話となった。幼い弟と妹に会いに、第三皇子クロヴィスはよく日本を訪れた。目的はこの二人を絵にかくことと、日本の桜を大変気に入りその景色を描く事だと説明している。
カメラが望遠レンズで三人の顔を映していくので、僕はその姿をじっと見た。
こうして改めて見ると、本当に綺麗になったと思う。
透き通るような白磁の肌に一筋だけ醜い傷跡が残っているが、それ以外はもう痕跡すら残っていない。あれだけひどい傷を負ったなど、過去を知らない者ならば信じられないと口にするだろう。
美しいロイヤルパープルの瞳が、日の光を浴びきらきらと輝いている。
慈愛に満ちたその眼差しは、愛する妹と兄が傍にいるからかもしれない。
宝石のように輝く綺麗な瞳に、引き込まれそうになる。
その色が作られたものだという事だけが残念だった。
それでもやはり彼にはこの色が一番似合う。
血のように赤い瞳は似あわない。
ギアスを解除した後も、表向きには瞼が開かない演技をしていたが、V.V.を捕獲した事でその演技は不要となった。心の傷を日本で癒しているとアピールし続けた事で、ルルーシュとナナリーは帰国することなく日本にい続け、そして3年前に治療の甲斐があり、その瞳が開いたとようやく報告したのだ。
今は心と足の治療という名目で滞在している。
この、アッシュフォード学園に。

アッシュフォード学園にはルルーシュとナナリーだけではなく、スザクとカグヤ、カレンも通い、大学に進学し教員免許を取った井上と吉田、玉城も教員として働いている。もちろんジェレミアや咲世子も護衛としているし、日本からの護衛として藤堂たちも警備にあたっている。
まさに鉄壁の防壁が引かれた、日本で最も安全な場所。
その上この学園全体は、ルルーシュの持つボタン一つで絶対守護領域を展開できるなんて、誰も思わないだろう。
ここまでこちらの自由がきいたのは、当主ルーベン・アッシュフォードと、その孫娘ミレイ・アッシュフォードもまた未来の記憶を持っていたからだ。
おかげであの頃と同じく、いやそれ以上にお祭娘は暴走しているのだが。

『スザク、そろそろ時間よ』

カレンの声が通信機越しに聞こえ、僕の意識は引き戻された。

「解っているよ、カレン」

名残惜しく感じながらも、僕はテレビを消す。

『それにしても、皆落ち着いているな・・・俺は緊張して眠れなかったのに』

ナオトが不安を滲ませて言うので、僕たちは思わず笑った。

『当たり前でしょお兄ちゃん、私たちは経験者だもの。黒の騎士団エースパイロットの名は伊達じゃないわよ』
「僕も死神なんて呼ばれていましたからね」

つまりそれだけ多くの戦場を渡り歩いたと言う事だ。久しぶりの実戦は、懐かしい緊張感をもたらしてはいるが、ナオトのように声が上ずるような事は無い。
しっかり熟睡したから気分もいい。

『まあ、そうだが』
「大丈夫ですよ。ナオトさんは東京の防衛ラインを四聖剣と共に守ってください。後は僕とカレンで十分です」
『そうそう、私たちだけで余裕よ。だから東京をお願いねお兄ちゃん』

たとえ同程度の機体を相手が開発していたとしても、最強を誇った白の騎士と紅蓮の騎士がこちらには揃っているのだ。
負けることなどありえない、あってはならない。

「早く終わらせて帰ろう。僕たちの王の元に」

その言葉に、皆明るい声で返事をした。



「では、今からクロヴィス殿下、ルルーシュ殿下、ナナリー皇女殿下にお話しを・・・あら?」

アナウンサーが三人に近づこうとした時、ばたばたと険しい表情をした軍人が数名駆け寄ってきた。皇族三人の方には二人の少女が駆け寄っている。
何か不手際をしてしまったのだろうか?
アナウンサーは一瞬で表情を強張らせた。

「ど、どうしたんですか!?」
「すまない、カメラを止めてくれ。緊急事態だ」

そう言ったのは、テレビでもよく見かける日本側の警備責任者、藤堂。
その表情はいつも以上に険しい。

「緊急事態!?」
「ブリタニアが先ほど日本に宣戦布告をした。ルルーシュ様たちの身が危険だ。安全な場所に避難していただく」
「え!?な、何の話ですか!?」

何の冗談だとアナウンサーは声を荒げた。

「すまないが時間がない。既にブリタニアは日本に向けて進行している」
「ですが、皇族が3人もこの地にいるのに戦争なんて!」
「だが、事実だ!日本に友好的な、子供思いの皇帝だと信じていたが、それは我々を油断させるためだったのかもしれない。だが、ルルーシュ様達の事は安心てほしい。必ず我々がお守りする。たとえ、御三方の母国が敵となってもだ。カグヤ様達もこちらで一緒に保護するため、皆さん敷地内から出てください」

そういうとすぐに藤堂は踵を返し、ルルーシュ達の元へ走った。
緊迫した空気に気押され、抵抗する事も出来ず、軍人と警備の者達にテレビクルーは学園から追い出された。
彼らはすぐにこの事を局へ報告すると、テレビ局は総力を上げ情報を集めた。
そして、藤堂の言葉が真実だと知ることとなる。



皇歴2015年9月20日

日本とブリタニアの戦争が始まった。

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